butaji.com
2018 07 18 out
インタビュー(後編)
取材・文:渡辺裕也

—— アートワークをセルフ・ポートレートにしたのは、butajiさんご自身の意向ですか?

butaji:はい。いちど振り切ったほうがいいなという気持ちがあったので、ここはポートレートでいきますと。撮影を植本一子さんにお願いしたのは、彼女は多様な愛の形を考えている方だから。一子さんの著作を読んだときに、なにか通じるものがあるんじゃないかなと思ったんです。

—— では、この『告白』というアルバム・タイトルについては?

butaji:このアルバムって、じつはデモが3種類あって。そのヴァージョン3ができた段階で、このアルバム・タイトルを思いつきました。というか、これ以外には思いつかなかったな。

—— たしかに、このアルバムの内容をこれほど的確に言い当てたタイトルは他にないと思います。

butaji:告白って、なにかの結論を相手に告げるという行為のことだと思うんですけど、僕がこの言葉を使って言いたかったのは「わからない」ということなんですよね。だから、「あなたがいま告白している内容って、わからないってことだよね? それって、告白なの?」みたいな話でもあるんですけど。アルバム・タイトルが『告白』で、そこに「秘匿」という曲が入ってるというのも、なんかおもしろいなと思ったし(笑)。あと、すごくJ-POP的ですよね、告白という言葉って。

—— ええ。だからこそ、誤解される可能性もあったと思うんです。勿論この作品にはフィクションだって含まれているわけだし。

butaji:僕の音楽を昔から聴いてくれている友人からは「こういうタイトルとかジャケットって、以前ならいちばんイヤがってたやつだよね」と言われました。たしかに以前の僕はそうだったと思う。でも、これから音楽をずっと続けていく以上は、なにか違和感を抱いたら、抵抗なくそこで道を変えられるようにしたいんです。僕じゃなくてもいいことを僕がやった時点で、それはもうアウト。自分にできることを常に探し続けるしかないし、そうじゃなければ生きていく意味を見失ってしまう。実際、今までに僕が影響を受けてきた作品はずっとそういうものだったし。

—— そこでひとつのきっかけとなった曲が「EYES」。そして「あかね空の彼方」、「秘匿」、「抱きしめて」が出来た段階で、つくるべきアルバムの方向性はほぼ見えたと。

butaji:ええ。あとはもう、得意のしりとり作業というか。「ここにこういう曲があったらいいな」みたいな考えをもとに作っていくような感じでした。「EYES」の前につくっていた曲は、けっこうビート寄りなものが多かったんですけどね。それもBPM137の曲とか。「I LOVE YOU」も、ビートだけは2015年くらいからあったものなんです。

—— 「I LOVE YOU」に関しては、たしかにビートがどの曲よりも強調されていますよね。とても激しい曲だし、シンセサイザーの上モノもけばけばしいというか。

butaji:それこそ「I LOVE YOU」みたいにビートが強調されていて、もっと声を張り上げるような曲もいくつか作っていたんです。で、それもそれでよかったんですけど…。そうしているうちに「あかね空の彼方」や「秘匿」が洪水のような勢いで出来ていって。「ああ、もうこっちの道を辿っていくしかないんだな」と。

—— なるほど。では、その道程はどういうものだったのか。ここからは1曲ずつお話していただいてもいいですか?

butaji:わかりました。

1. I LOVE YOU

butaji:この曲は「怒り」ですね。まずは怒りの衝動からはじめて、その熱がアルバム全体をとおして徐々に冷めていく様を書きたいなと思ったんです。そうしたら最後にはなにが残るのかなって。

—— それはbutajiさん自身、怒りを抱えていたということ? 実際、僕はこの曲のまくしたてるような歌い方にとにかく圧倒されたんです。ラヴ・ソングでありながら、あまりにも切迫しているというか。

butaji:わかりあえないということは、やっぱり僕にとっては怒りでもあった。深く落ち込むというよりは、「お前が悪いのに!」みたいな。どう折り合いをつけていこうかと考える前に、つい衝動的に手が出ちゃうような、そういう感情も内面では抱えていたと思う。だから、これは自分の理想を追い求めて、相手の言い分も聞かずにそれを押し通そうとするような、そういう争いについての曲なんじゃないかな。

—— 最後の〈わかり合えない事には理由があって〉から始まる歌詞に、いま仰ったことが集約されていますね。

butaji:わかりあえず、お互いに誤解したまま進んでいってしまうということ。ただ、そうやってお互いがそれぞれ進んでいく先には通底するなにかもあると思うんです。で、それが「あかね空の彼方」で取り上げている「愛」にもつながっていくんですけど…。まあ、とにかくここからどうなるか楽しみにしていてください、という感じですね。そういう気持ちで「I LOVE YOU」を1曲目にしました。

2. 奇跡

butaji:「I LOVE YOU」は最高の1曲目になると思いました。ただ、この曲はすでに出来ていた「秘匿」や「あかね空の彼方」とのテンションの差が激しかったので、このあいだに橋をかけるような曲がなにかしら必要だなと。そういうことを考えながらつくったのが「奇跡」ですね。

—— たしかに、この曲でも「I LOVE YOU」の怒りはまだ続いている感じがあります。

butaji:そうですね。ただ、それは意図したものではなくて、あくまでもビートのつながりを考えていったら、結果的にそうなったというか。「この、ままならない状況をどうしたらいいんだろう」みたいなことがこの曲のテーマでした。あと、これも「I LOVE YOU」と共通しているところなんですけど、表現がとても歌謡曲的だと思うんです。「I LOVE YOU」では〈すれ違うふたりの上に大粒の雨〉、「奇跡」では〈人並みが押し寄せて〉の節とか、すごく歌謡曲っぽいなって。

—— たしかに。というか、この「奇跡」というタイトル自体がものすごくJ-POP的ですよね。それこそ「奇跡」という曲は日本に数え切れないほどあると思うんだけど。

butaji:うん。いっぱいありますよね、「奇跡」。

—— もっというと、J-POPに登場する「奇跡」って、その大半は「私たちのまわりは様々な奇跡で満ちている」みたいなニュアンスだと思うんです。要は、あなたの身近にある物事はそれ自体が奇跡的なんだ、と。でも、ここでbutajiさんが歌っている「奇跡」はまったくそれと別モノというか…。

butaji:切羽詰まってますよね。それが〈僕の形を留める最後の理由になる前に/奇跡よ起これ〉というところに表れていると思う。もう願うことしかできなくなる前に、なんとかこの状況を改善できないかっていう、そんな気持ち。衝動的な怒りに任せて歩みを進めていったら、いつの間にかとんでもないところに行き着いてしまって、もうなにも打つ手がない。そんな追い込まれた状況ですよね。

—— 歌い出しの弱々しいフェイクも象徴的な感じがしました。それが起こる可能性はかなり低いとわかっていても、もはや奇跡を信じるしかない。そんな心情があの声に表れているような気がして。

butaji:なるほど。とにかくこの曲では〈奇跡よ起これ〉と言いたかったんですけど、たしかにそれって精神的な弱さでもありますよね。隠れ蓑になっているものがとっ払われた状態というか、自分自身の生活を支えてきた思想をちゃんと認識してこなかったがために、もはや対立を解決する術もなくなってる。そういう脆弱さが「奇跡」という曲には表れているのかもしれないですね。

3. 秘匿

—— 「一橋大学アウティング事件」に触発された曲だという話は、前編でもしていただきましたね。とにかく衝動的に書いた曲だと。

butaji:ええ。僕は「秘匿」に書かれているような愛の方向性や、被害者の感情を理解していた。というか、もしかすると僕もこの曲に書かれているようなことを前から言いたかったのかもしれないですね。ただ、訳もわからずにわーっと曲をつくっている間も、どこかで客観性はずっと保たれているんですよ。それこそ「秘匿」というタイトルにしたのは、「接吻」みたいな曲をつくりたいな、と思ったからでもあって。

—— オリジナル・ラブの?

butaji:そう。僕がここでやりたかったのは、既存のポップスの器というか、アレンジの肉を借りてきて、その骨を今の時代に即したものに入れ替える、ということだったんです。

—— アレンジが肉で、歌詞が骨。その骨を作り替えようと。

butaji:うん、そうすることによって、もっといろんな人に向けられた曲をつくりたかったんです。そして何より僕自身を受け入れられる器を作りたかったんだな、と。

—— 実際に「秘匿」をつくってみて、その手応えはどうでしたか。

butaji:「これは一体なんだろう…」みたいな感じでした。「できた!」みたいな喜びよりも、自問自答している時間のほうが長かったかな。いつもそうなんですけど、「この曲は最高だ!」みたいな気持ちにはならないんですよ。

—— 曲をつくることでカタルシスを得ることは?

butaji:最近ないんですよね、それが。昔はそういうのもあったし、それこそ『アウトサイド』の頃はまだギリギリあったんだけど。練っている時間が長かったから、それで感じづらくなってるのかも。ただ、「秘匿」と「あかね空の彼方」は本当に短時間でつくれたので、短時間で出来たという達成感はありました。

4. Someday

butaji:ここまでの3曲で、「怒り」という感情の提示はひとまず終わったので、その一区切りとしてこの曲を持ってきました。こういうのもあったほうが、アルバムの流れをたどりやすいかなって。

—— たしかに「Someday」はインタールード的な位置づけだと思うんですが、実際はとても深い余韻を残す曲で。

butaji:ここでちょっと一時停止した感じがありますよね。

—— サウンド・プロダクション的にも、ここでちょっと流れが変わりますよね。

butaji:これはいわゆるアンビエントR&Bみたいなアプローチというか。このアルバムはAメロ→Bメロ→サビみたいな形式がほとんどを占めてるんですけど、最近のポップスは1ループでつくることも多いじゃないですか。今日こうして作品を出す意味としても、やっぱりそこは取り入れたかったんです。

—— なにか参照されたものはありますか?

butaji:『ブロンド』ですね。ただそれは具体的にどのトラックってことではなくて、あのアルバム全体からうけた印象というか。〈I reach you〉と歌いだすところからシンセがふわーっと流れるところとか、基本的にはピアノだけなんだけど、そこに輪郭のない音が流れていくところなんかは、そういうイメージでした。

—— ピアノの録音、素晴らしかったです。部屋でひとり何の気なしにレコーダーを回したような、さりげない雰囲気だなと。

butaji:まさにそんな感じで録りました。あと、この曲では鉛筆の音がずっと鳴ってるんですけど。

—— あの「ササササ…」という音、ものすごく想像を掻き立てますよね。

butaji:あれは手紙を書いているイメージで。このアルバムの印象を内省的なものにしたかったので、ああいう音を入れました。そこの判断はひとつも迷わなかったな。違和感はまったくないと思いました。

—— たしかにあの鉛筆の音からはものすごく個人的なシーンが思い浮かぶし、そこも『ブロンド』的ですよね。『ブロンド』は何人ものプロデューサーが参加している作品だけど、そこにはフランク・オーシャンという個人の内省が描かれているし、生活音とかノイズみたいなものがおそらく意図的に残されていて。

butaji:うん、パーソナルなんですよね。それこそ僕は自分のソロ作品でポップスやヒップホップのプロダクションみたいな分業制を取り入れようとはまったく思ってないのですが、むしろ『ブロンド』はすごくパーソナルなプロダクションだと感じたし、そういうところに惹かれたからパーソナルなものを自分もやりたいなと思ったんです。

—— 内省は〈あの頃に戻りたい〉という歌詞にも表れていますね。たしかに「怒り」とは別の感情がこの言葉からは読み取れます。

butaji:そうですね。次の「花」につなげるためにも、そういう展開にしたほうがいいなと思って。あと、他の曲がどれも具体性を帯びているように感じていたので、ここですこし抽象的な言葉を入れてバランスをとろう、みたいな意識もあったのかもしれない。そう、僕はけっこうバランスをとろうとするんですよね。「Someday」は抽象的だけど、象徴的な曲でもあると思います。

5. 花

butaji:「花」は2014年頃からある曲で。自分でもよく出来ていると思っていたから、次のアルバムには入れたいなと思っていたんです。ライヴでも、「いい曲だね」と言ってもらえてたし。僕、人から頂いたそういう言葉はけっこう取り入れる方なんです(笑)。あと、この歌詞もけっこう抽象的かな。ちょっと昔話をしているような感じというか。

—— たしかに。ストーリー的にも、「Someday」の〈あの頃に戻りたい〉とつながっているように感じました。

butaji:そうですね。次の「あかね空の彼方」ともつながってるし、アルバムのコンセプトにも合致しているなと。そういえば、エレキ・ギターの音が入っているのは、この曲と「あかね空の彼方」だけかもしれない。ギターのコードから作り始めたのは「花」だけかな。

—— それは意外ですね。butajiさんのライヴはギターの弾き語りが多いから。

butaji:あんまりギターのコードを知らないんです(笑)。曲は頭のなかでつくることのほうが多いから、ギターに触っている時間はけっこう少なくて。だから、「花」は衝動でつくった曲ではないんですよね。

—— 作り方が他の曲とはちょっと違っていたと。それもあってか、ちょっとここで一息つける感じがしました。

butaji:うん、ここでちょっと休めますよね。単純に「いいよね、この曲」みたいな感じで聴いてもらえるんじゃないかなって。

6. あかね空の彼方

butaji:当初この曲は9分くらいの長い弾き語りだったんです。「花」との流れを意識したことによって、こういうバンド・アレンジに作り直したんですけど、それでもすごくシンプルな曲だと思う。あまり変なことをしたつもりはなくて…。この曲については、客観的に語ることがまったく有効だとは思えないな。なにかをモチーフにしたわけでもなく、まったく内面的な衝動に従って書きました。鼻歌をうたいながら、その旋律に言葉を当てはめていく ——そういう作業をしたのは、これが初めてでしたね。

—— アルバムの冒頭3曲に通底しているのが「怒り」だとしたら、「あかね空の彼方」以降の流れはどのように言い表せますか?

butaji:もしかしたら、ここで「祈り」が始まっているのかもしれない。怒りから始まったけど、このままならない状況のなかでは、もはや祈ることしかできない。そこで自分が祈ることを受け入れていく。そういう流れなのかもしれないですね。解決策がないのであれば、もう祈るしかないなと。この曲の〈私は真に受けて〉というフレーズは、ちょっと宗教性も帯びていると思うんです。自分がなにかひとつの目標に向かっているんだと信じるのって、たぶん現状は叶わなかったことに対してなにか救いを内的に求めているからだと思うし。

—— わかり合おうとしたけど、結局それは叶わなかったと。

butaji:そう、叶わなかった。〈愛情のベース〉という言葉を引っ張ってくることによって、ここで僕は叶わなかったものについて歌っているんだと思います。

—— では、この〈愛情のベースを流れる/恐らく低い音が〉という一節は、どのようにして生まれたのでしょう。

butaji:やっぱりこれも衝動的に生まれた言葉なんですけど…。まあ、愛情のベース(base)だから、おそらく低い音(bass)だろうなと(笑)。〈愛情のベース〉というのは、なにか奥深くにあるもの。深海みたいなものといえばいいかな。目の前を流れている波ではなく、その奥深くにある海底について想いを馳せること。どの世代のどんな人にも根底に流れているもの。たとえばそれは多宗教とかにも言えると思うんです。なにかしらの目標にむかってそれぞれ進んでいったとしても、その先にはなにか通底するものがあるんじゃないかと。そういうことを考えていましたね。

—— この曲は郷愁を掻き立てるサウンドもさることながら、歌詞の背景描写がとても美しくて。

butaji:歌詞については、本当によくできたなと思ってます。〈薄紫の空の様子と/奇跡のような土曜日に/ガラス越しに煙草を点ける/湯がいたさやえんどう〉というくだりなんかも、ちょっと違和感があるというか…。ただ物語が思い浮かぶような名詞を置いているだけに等しいんですけど、こんな俳句のような状況描写があの短時間でよくできたなって。

—— 「次の時代に渡されていくような耐久性がある音楽を作ってみたい」という目標は、ここでひとつ達成されたような感覚もあったのでは?

butaji:そうですね。自分が音楽をつくっていくことの目的をひとつここに閉じ込められたかもしれない。普遍性みたいなものを獲得できたのかな。もしかしたらこれはこれで俺はひとつ満足したのかなって。この曲ができたときは、そう思えたような瞬間でもありました。

7. 抱きしめて

butaji:自分はなんで怒っているのか。分かり合えないからこんなに大変な思いをしているのに、自分がこの思想にこだわっている理由ってなんなんだろう。その根本を辿っていくと、そこには幼い頃に家庭環境からうけた影響が少なからずあると思うんです。実際に自分はそこで社会性を学んだわけだし、いま自分が無意識のうちに下している判断も、自分が刷り込まれてきた思想に基づいていたりする。だったら、そこを解きほぐしていかないと、この対立構造は解決できないぞと。だから、この曲の〈同じ顔をした〉という言葉には、家系とか血筋みたいな意味合いもあるんです。

—— 人は変わっていくものだけど、血筋だけは変えられないんですよね。それは素晴らしいことでもあるけど、ときには自分を縛るものでもあるわけで。

butaji:あと、〈同じ顔〉にはもうひとつ別の見方もあって。たとえば誰かをすごく好きになると、僕は自分の半分をその人に渡してしまったような気持ちになるんです。その人と自分の境界がわからなくなるというか。もし別れてしまっても、その人から受け取ったものはずっと僕の中に残っている ——そういう感じですね。なにか共有している器のようなものを、あの〈同じ顔〉という言葉で表したんじゃないかな。血を引かなくてもそれを共有することはできるし、家族というフォーマットには様々ある。親子というのは血のつながりだけではないし、それこそ愛情のベースは変わらないというか。

—— butajiさん、『万引き家族』はもう観ましたか?

butaji:まだ観てないです。観た方がいいですか?

—— ぜひ。まさに今おっしゃっていたような話がテーマの映画なので。

butaji:ああ、そうなんですね。すぐに観ます(笑)

8. 予感

butaji:この曲はアンビエンスがほとんどの要素を占めていますね。鈴というか、鉄板を叩いたような音が両脇から聴こえてきたり ——こういうアレンジは(前作『アウトサイド』に収録されていた)「銀河」という曲でもやっていて、それを引き継いでいるというか。

—— ここまでくると、アルバム序盤の怒りはもう収まっていて。〈じっと目を見る/そっと手を取る〉という言葉の繰り返しにも、トーン・ダウンした心境が表れていますね。

butaji:なにかを決めつけてしまうと、その型に自分が縛られてしまうし、むしろそれでは判断できないことがこれから絶対に沢山ある。だったら、この迷い続けている状態を受け入れよう。判断できないから弱いんじゃないんだ ——そういう曲なのかもしれないですね。あと、僕はこのアルバムのなかで、「怒り」を「恋」という単語に置き換えたりもしてるんです。それは盲目的なものの比喩でもあるし、直接的な意味での恋でもあるんですが ——そういう盲目的なところから離れて、自分がどう振る舞ったらいいのか迷っている状態を「優しさ」と言い換えることもできるんじゃないかなって。

—— ある意味、『告白』というアルバムはここでひとつの結論に達しているようにも感じました。

butaji:たしかにこれで本編は終わりというか、そういう気持ちでしたね。それこそ「予感」は前後のこともなにも考えずにつくった曲で。このあとに「EYES」がつづくのであれば、僕の手グセであればもっとエレクトロ色を強めていたと思う。でも、そうはならなかったんですよね。

9. EYES

—— このエンディングをどう解釈すればいいのか、未だにわからないんです。butajiさんがこのアルバムをつくるきっかけとなった曲でありながら、歌詞もサウンドもあまりに異質というか。

butaji:うん。わからないですよね、この曲は。ここまでずっと主観の曲が続いていたのに、「EYES」だけは客観だし。

—— そう、「EYES」はドローンの視点から描かれているんですよね。人間の視点ではないから、曲から浮かび上がるイメージがぜんぜん違う。

butaji:そのまま見たら本当は綺麗なはずなのに、奥深い思想とか自分の考えによって、人間はあるものをあるがままに見れなくなってる。そこで対立しつづけているところを、機械の目をもったドローンから「そのままで素晴らしいのに」と言われてしまう ——そういう視点ですね。この視点があることによって、アルバムにまたひとつの解釈が生まれるんじゃないかなと思ったんです。自分以外の視点から何かを見てみること。主観で悩んでいたら「祈る」ことしか見出せないかもしれないけど、そこで見方を変えることもできるんじゃないか、と。

—— なるほど。

butaji:やっぱりそこには解決しないというのが主眼にあったんです。悩んでいるのはまったくの当事者で、なにかを示唆したり明言できるような立場に自分はない。言葉で人に寄り添うことは本当に難しいけれど、僕もずっとそれを考え続けているから。だから、迷いを迷いのまま音楽に落とし込んでいく。それが今のスタンダードなんじゃないかなと思って。

—— そもそも音楽やアートは受け手に正解を突きつけるものではないと思う。でも、実際は作品に何かしらのわかりやすい回答を求める人が少なくないですよね。

butaji:うん。そうやって人がわかりやすい答えを享受してしまうこと、大きな言葉で歌ってしまうポップスに踊らされちゃうことへの違和感はずっとあって。そこで自分は「渦のなかにいるだけでは気づけない視点があるんだ」ということを言えたらなって。そういう言葉をみんな欲しがってるけど、別にそれが正解ではないんだよと。

—— 本当に、その通りだと思います。

butaji:あと、今作には「大人」というキーワードもありましたね。成長を受け入れていくこと。体力的に衰えていって、結婚したりして、大きな病気を患ったりして、死んでいく ——そういう流れに自分も漏れていないということにやっと気づいたんです。もう20代は帰ってこないんだなってことをやっと認識できた(笑)。だから、焦りはありますよね。このまま終わっちゃうじゃんって。やっぱり以前の自分は幼かったんだと思う。一回性ということをあまり意識してなかった。でも、自分はいま年月を経てこの状態にいるわけで…。(ふと時計を見て)ああ、もうこんなに時間が経っていたんですね。なんか、一瞬だったな。じつは今日この日を迎えるまで「何をどう話せばいいんだろう…」と思ってたんですよ。でも、やっぱり言いたいことがあったんだな。

—— 『告白』を作り終えて、今はどんなことを考えていますか。また次の音楽に取り掛かる?

butaji:ええ、そのつもりです。次はOPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)みたいな方向に行こうかな(笑)。僕、ああいうソフト・シンセの音が大好きなんですよ。歌という楽器をつかった音楽として、今回の作品が僕のなかでひとつの帰結になったとしたら、次はサウンドのほうに振り切るのもいいんじゃないかと思ってて。まあ、わかんないですけどね。もう戻れないんだなってことを今は深く認識しているところです。これから先にどんなことを歌っても、この作品が影のように付きまとうだろうなって。そこはもう、覚悟するしかないなと思ってます。